ドイツ現代美術の風景──ベッヒャー/ゲルハルト・リヒター/アンゼルム・キーファー塩田千春

ドイツ現代美術の風景──ベッヒャー/ゲルハルト・リヒター/アンゼルム・キーファー塩田千春

ドイツいう土地を軸に、それぞれの表現で時代と向き合ってきた現代美術の作家たち。その作品世界を深く味わえる書籍を、年代順にご紹介します。

最初にご紹介するのは、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の作品集3冊です。

 

1960年代から活動を本格化させた彼らは、炭鉱の塔や給水塔といった産業建築を、まるで分類図鑑のように撮影していきました。建物の個性と類型性を静かにあぶり出すその視線は、写真表現に新たな地平を切り開いたといえるでしょう。彼らの活動は、後の「デュッセルドルフ派」にも大きな影響を与えています。

続いてご紹介するのは、ゲルハルト・リヒターの『ATLAS』

リヒターが1960年代から長年にわたり収集・編纂してきた写真、スケッチ、新聞の切り抜き、家族写真などを、パネル形式で構成した一種の視覚的アーカイブです。これらは単なる資料ではなく、彼の絵画作品の源泉であり、世界との接触面でもあります。

何気ない日常の風景から歴史的事件まで、並べられ、比較され、反復されることで、見ること・記録すること・再解釈することの意味が浮かび上がってきます。絵画の背後にある「見ることの地図」として、『ATLAS』はまさに彼の創作の核心に触れる試みと言えるでしょう。

 3番目は、アンゼルム・キーファーの作品集3冊。

1970年代以降、戦後ドイツの歴史、神話、精神性を重層的に表現してきた作家です。鉛や藁、本、土といった素材を用いたその作品は、見る者に「記憶の重み」を突きつけてきます。荒廃と再生のはざまに立つようなその世界観は、まさに現代ドイツの精神的地層を掘り下げる営みといえるでしょう。

最後にご紹介するのは、塩田千春の作品集。

日本生まれの彼女は、1990年代からドイツに拠点を移し、空間全体を用いたインスタレーションで国際的な注目を集めてきました。「不在の身体」「記憶の痕跡」といったテーマを、赤い糸や古い家具、焦げたピアノなどを通じて可視化していくその表現は、まさに内なる声を静かに空間にひらくような行為でもあります。異郷ドイツで育まれたそのまなざしは、他の作家たちとはまた異なる角度から、私たちの「存在」を見つめています。

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