レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」

レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」

フランスの作家レーモン・ルーセル。
生前はあまり評価を得られず、1933年に薬物中毒で死去。
その後世の中に「無意識の探求」や「偶然性」を重視したシュルレアリスムの芸術理念が広がり、文学や芸術のトレンドが変化します。次第にルーセル特有の言語表現や構造がシュルレアリスムの文脈で評価されるようになります。

「ロクス・ソルス」は1914年に書かれた作品です。

科学者マルシャル・カントレルの別荘「ロクスソルス荘」に招かれた彼の友人達がその邸宅内にある数々の発明品をじっくりと見てまわる、という筋書きを持って物語は進みます。

カントレルの発明品(一部落札品)には芸術・科学・死・生・記憶…などの概念が落とし込まれていながら、どれも奇想に満ちていて、1つ1つの品に対して綿密なエピソードが語られます。

太陽光線を集めて浮揚する撞槌の下、無痛で抜かれた歯や歯根を素材としてオートマティックに作られるモザイク画(カントレルは無痛抜歯が可能な装置までも発明済み)、人工石に嵌め込まれた水槽のなかで頭や腰を振る踊り子(水中でも呼吸ができる)、その踊り子の髪が弦となり美しくさざめく音楽、猫の身体を生きたまま電池に変える丸薬…。

主人公を含む「私たち」はカントレルの案内に従って邸宅を移動しながら、発明品を次々に鑑賞し、ダークかつシュルレアリスティック、ときに狂気的な発明品の目撃者となります。

論理的で客観性のある語りによって、発明品の背景が明らかにされていくというパターンが繰り返され、幻想文学的なムードを持ちながらも、過剰なファンタジーに偏ることは無く、どこか形式的ともとれる記述が続きます。
ロクス・ソルスにおけるこの「形式的な印象」はレーモン・ルーセルが仕込んだ実験的な試みと評されていることも。

強固な想像力で夢想世界を言語化しながらも、大げさなクライマックスに向かうことを回避、その特異なスタンスによって「ロクス・ソルス」という長編小説のなかで描かれるイメージ1つ1つには「永遠性」が宿されているように感じられます。

訳者解説によると、いくつかの場面においてルーセルらしい言葉遊びが仕掛けられているとのこと…(フランス語で韻が踏まれているなど。日本語で読むとそこまでの発見は難しいのですが。)

ペヨトル工房発行の「ロクス・ソルス」は箱入りの美しい装丁。「夜想」の編集やデザインでも知られるミルキィ・イソベ氏によるものです。

ネットショップでも販売中

ぜひこの機会にレーモン・ルーセル作品をお手に取ってみてください。

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