雑誌「HEAVEN」と表紙の落書き

雑誌「HEAVEN」と表紙の落書き

1980年当時、音楽の分野で流行した「ニューウェーブ」を合言葉に「空中楼閣的天眼通」というキャッチコピーがつけられた美しい雑誌「HEAVEN」

伝説の自販機本『Jam』から誌名を変更して、編集発行人の佐内順一郎(高杉弾)を中心に、近藤十四郎、山崎春美、隅田川乱一、山本勝之らが、エロ、アヴァンギャルド音楽、オカルト、漫画、ビデオアートなど多岐にわたるジャンルの記事を編集・執筆しています。前身が自販機本であるものの、ポルノ的な写真はほぼ掲載されておらず、Jamと比較してもヴィジュアルに特化した内容です。

羽良多平吉がエディトリアルデザインに関わり、彼のブックデザインの中でも特に有名ですが、表紙以外に手掛けたページは一部分で、大類信など様々なデザイナーが誌面を構成しています。

特に『Jam』から始まった、大学新聞のパロディ「早大文化新聞」は唯一無地の過激さ・不謹慎さ・くだらなさが炸裂する、唯一無二の企画です。山崎春美「ナポリの夜」や鈴木いづみの暴露的内容も含む連載、大里俊晴の書評、かわうその真相、海外の雑誌から翻訳したインタビュー記事など、常に最先端のカルチャーと悪趣味的な冗談が混ざり合い化学反応を起こしていました。その点が、現在に至るまで類似する雑誌やメディアが見つからず、今でもカルト的な人気がある要因になっています。

当店が入手した「HEAVEN」のうち、創刊号を含めた一部の号には切り抜きや線引きなど資料として使用された痕跡があります。表紙にはマジックで「CAMP」と書かれた落書きがあります。批評家のスーザン・ソンタグが定着させた「キャンプ」という概念は、諸説あり一言では説明できませんが、人工的で常軌を逸した華美、誇張された様を、スタイル(様式化)とすることを意味します。

「HEAVEN」は8号で編集長を佐内順一郎から近藤十四郎に交代するのですが、その号の編集後記で近藤氏は、佐内順一郎の才能はシステムを作ること、さらに彼自身がシステムであったこと、と語っています。名前を高杉弾として、自身を「メディアマン」と称する佐内順一郎の表現は「CAMP」の様式に近いものであったのかもしれません。おそらく資料として読み込まれた「HEAVEN」の表紙の落書きを見ると、持ち主がどういう意図で書き込んだのか、想像を巡らせることができます。

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