不条理SFと美少女の漫画家・吾妻ひでおの作品が多数入荷しました。
吾妻ひでおの漫画家生活は、少年漫画雑誌に不条理コメディを寄稿することから始まりました。70年代後半にはブームを迎え、SF作品「不条理日記」で星雲賞コミック部門を受賞。メジャー作家としての立場を確立します。その一方で同人誌「シベール」にも寄稿し、美少女漫画のブームに火を付けました。後には二度の失踪とアル中病棟への入院を経験し一時期執筆から離れますが、失踪生活に脚色を加えたエッセイ漫画「失踪日記」で日本漫画家協会大賞など多くの賞に返り咲いています。
吾妻ひでおの魅力は何といっても、「萌え」「二次元ロリ〇ン」という概念の源流となった美少女の描写。絵柄がかわいらしいのは勿論のこと、SF的世界へも平然と斬り込んでいく大胆さが読者の心を掴みます。人間の染色体を引きずり出したり、ライターの火を噴きかけたり、何百人にも分身して男に絡みついたり……SF・エロ・ギャグの境界を飛び越え、独特のあっけらかんとした幻想を成立させる存在が吾妻ひでおのヒロインです。
不条理ギャグで謎の生物や物理法則の崩壊を描いてきた吾妻ですが、「アル中病棟」では慢性アルコール中毒の症状で見た幻覚を克明に描き出しました。苦しみから酒に溺れる悪循環と病棟生活を題材とした作品ですが、脚色を交えて和気藹々とした雰囲気に仕上げられています。吾妻ひでおが自身の不幸や心の闇を如実に表現しつつ、エンタメへと昇華する姿勢は恐ろしいほどにストイック。かわいい画風と裏腹に、深淵から様々な混沌を持ち帰ってきた作家なのかもしれません。